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週のはじめに考える 司法は「市民の砦」か

過去の原発をめぐる住民訴訟はすべて、結果的に「原告敗訴」で終わっています。
福島第一原発の事故を境に、裁判官の考え方は変わるでしょうか。

「相対性理論」で名高いアインシュタイン博士は一九四五年、「アトランティック・マンスリー」という雑誌に次のようなことを書いたそうです。

《原子力が将来、人類に大きな恵みをもたらすとは、いまのわたしには、考えにくいのです。
原子力は脅威です》(講談社刊「科学の巨人 アインシュタイン」)

◆覆った差し止め判決
福島第一原発事故で、金沢地裁の元裁判官・井戸謙一さんはその脅威をしみじみ感じました。

「いよいよ起きてしまった。まずそう感じました。
全国の原発に共通する危険性が、現実化したのだと思いました」

二〇〇六年、石川県にある北陸電力・志賀原発で、
全国初の「運転差し止め」を命じた当時の裁判長だった人です。

この裁判では、どんな揺れが原発を襲うかが争点の一つでした。原発近くの断層帯全体が一度に動けば、
マグニチュード(M)7・6の地震が起こる可能性が指摘されていました。

電力会社は断層は別々に動くと主張し、もっと小さな揺れを想定していました。
井戸さんらは「予測される地震は最大想定値として考慮すべきだ」と考えたのです。

しかし、この判決は〇九年の二審で取り消されてしまいます。
新しい耐震設計審査指針に基づく見直しが実施され、「安全」という国のお墨付きが出ていたのです。

名古屋高裁金沢支部は国の安全判断を認めました。「M6・8で十分。
断層帯が連動して動くことはない」とする電力会社の想定を妥当とし、
最高裁も原告の上告を退ける決定をしました。

◆最高裁は「二重基準」
井戸さんはこう続けます。
「原発に問題点があることを感じていても、多くの裁判官は過酷事故を起こす
現実感を持てなかったのではないでしょうか。

今回の事故は、事実をもって、問題点の証明をしたと言えます」
長く原発訴訟に取り組んできた海渡雄一弁護士も「日本の司法は原発の安全性に向き合ってこなかった」と
厳しく指摘します。

「そもそも数々の原発訴訟で『原告勝訴』の判決が出たのは、わずか二件だけです。
志賀原発の一審判決と、福井県の高速増殖炉『もんじゅ』の二審判決です。それも上級審で敗訴に逆転します。

これまでの裁判を見通すと、最高裁はまるでダブルスタンダード(二重基準)を
用いているのではないかと思われるほど、常に国の判断に追随してきたのです」

「もんじゅ」の設置許可を「無効」とする判決が出たのは〇三年です。
判決は「安全審査に重大な誤りがある」と述べました。それを最高裁が〇五年に覆します。

「最高裁は事実認定しないのが原則ですが、『もんじゅ』では、高裁判決にはない事実認定を書き加え、
矛盾する高裁の認定はすべて無視して、国の安全審査に過誤・欠落はないと結論づけたのです。

逆に東京電力の柏崎刈羽原発の訴訟では、最高裁は法律上の判断しかしないとして、
上告理由はないと退けました」(海渡さん)

裁判官は国や専門家の判断を尊重し、手続きに重大な誤りや落ち度などがなければ
「問題なし」としてきたのが実態なのです。

 中部電力・浜岡原発の裁判では、後に原子力安全委員長となった班目(まだらめ)春樹氏が中電側の証人として、「(原発の設計は)どこかで割り切る」と証言しました。

班目氏は原発事故後の国会で「割り切り方が正しくなかった」と珍妙な答弁をしました。
専門家もあてにならない証左です。

この浜岡原発訴訟の弁護団長・河合弘之弁護士を中心として、
今年秋から全国各地で「脱原発訴訟」を起こす動きがあります。

既に約百人の弁護士が名乗りを上げています。
3・11を受けて、国民の認識も裁判官の認識も変わったという風を感じています。

元裁判官の井戸さんも「第二のフクシマを想定し、裁判官の発想も影響を受けるでしょう」と語ります。
「正義はあっても力を持たない人間が、立法や行政に頼れないとき、救済できるのは司法だけです。
つまり司法は最後の『市民の砦(とりで)』であるべきです」

◆原点に立った目で
人間が発見した原子力をなぜ人間が管理できないのか。

アインシュタイン博士は皮肉を込めて「政治が物理学より難しいからですよ」と答えたそうです。

科学の巨人が「脅威」と語った原子力について、やすやすと最高裁が容認してきたことに驚かざるを得ません。
原点に立ち返って、「市民の砦」の役割を期待したいと思います。

東京新聞  2011年8月8日社説より。

「割り切り方が正しくなかった」現内閣府原子力安全委員長 斑目春樹氏のコメントだ。
また、3月12日午前6時すぎ、菅直人首相は陸自ヘリで官邸屋上を飛び立ち、
被災地と東京電力福島第1原発の視察に向かったが、機内の隣にいたのが班目だった。

原発の安全性をチェックする機関の最高責任者として「総理、原発は大丈夫なんです。
(原子炉は)構造上爆発しません」と述べた。その日の午後3時半過ぎ、建屋で水素爆発が起きた。

→【ズームアップ】親子の消えない不安
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